■ 経過
CTのスカウト画像にて横行結腸の著しい拡張と腸内残渣が認められた。下行結腸からS状結腸にかけてガスの消失が認められ脾弯曲部より肛門側の結腸の機械的イレウスを疑った。CTでは脾弯曲部下行結腸にwhirl signが認められ、これより口側の下行結腸から横行結腸には著しく拡張し腸内残渣が認められた。肛門側の下行結腸は虚脱していた。結腸軸捻症を疑い消化器内科医と外科医に連絡がとられた。発症後、6時間が経過していたが、捻転部の結腸の浮腫性変化が乏しく虚血性変化は弱いと判断した。開腹術よりも大腸内視鏡による整復が試みられることとなった。大腸内視鏡にて整復後に大量の残渣が流出した。腹痛も寛解した。翌日の腹部単純X-Pにてfree gasが認められないこと下行結腸の整復が維持されていることを確認して退院となった。
図-5
図-6
図-7
CF下ガストログラフィン造影(整復後)
慎重な手技によりCFは軸捻転部を通過した(図-5)。整復後のガストログラフィン造影では正常な脾弯曲部の下行結腸が描出され整復が確認された(図-6)。
退院前腹部単純X-ray (臥位)
前日のガストログラフィンが残存している。横行結腸と下行結腸の拡張は消失し正常像を示している(図-7)。
■ 確定診断名
Volvulus of the descending colon(下行結腸軸捻症)
■ 考 察
軸捻症(Volvulus)は,胃の他にS状結腸,盲腸や横行結腸にて生じる。欧米では盲腸とS状結腸に生じる軸捻症の比率は同程度であるが、日本ではS状結腸の発生率が圧倒的に高い。軸捻症には間膜軸性(mesenteroaxial)と臓器軸性(organoaxial)とがある。重篤となるのは血行障害をきたし易い前者でS状結腸に多い。S状結腸間膜が長く後腹膜付着部が短いという先天性要因と便秘、長期臥床、向精神薬服用、高齢などの後天性要因が加わるためと考えられている
1)
。この症例は下行結腸に発生しているが、脾弯曲部から後腹膜に嵌入するまでの固定の弱い腹腔内下行結腸が長いことが軸捻が発生した要因と考えた。文献によると横行結腸軸捻症は全軸捻症の1%未満とあり
2)
、下行結腸に発生するのは非常にまれと考えられる。
症状は突然の疝痛発作と腹部膨満で発症し、進行すると便臭を帯びた嘔吐をみる。CT所見は捻転部で腸間膜内の血管が渦を巻いて見えるwhirl signが特徴的な所見とされている。治療は早期には注腸造影や大腸内視鏡を挿入することで軸捻が解除されることが多いが、再発頻度も高いとされている。このため整復されても全身状態の改善を待って結腸固定術などの外科的処置が推奨されている
1)
。この症例は発症して6時間を経過していたが、CTで軸捻部前後の結腸の浮腫性変化が乏しく虚血性変化は乏しいと判断し、大腸内視鏡による整復が試みられた。
急性腹症の原因疾患は多数あり、その鑑別診断にCTは最も有効であるのは周知のとおりである。臨床の現場では急性腹症に対して最初からCTを行うことも多々あると思われる。腹部単純X-Pでcoffee bean signを示すような軸捻症の診断はCTでも問題ないと思われるが、虚血性変化の乏しい軸捻症の診断は横断像のみのCTで困難な場合があると思われた。大腸ガスの分布がCTよりも分かり易い腹部単純X-Pの良さを改めて実感したので報告した。
■参考文献
荒木 力:ここまでわかる急性腹症のCT, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京:118-146, 2002.
Mindelzun RE,et al:Vulvulus of the splenic flexure:radiographic feature.Radiology 181:221-223,1991.
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