■ 入院後経過  入院時は心窩部痛と軽度の発熱、胆道系酵素の上昇から急性胆管炎が疑われた。ERCPにて総胆管内にφ5mm、8cm長の動くひも状のdefectを認めたため、胆道内寄生虫と診断された。バスケットカテーテルで虫体除去を試みたが不能であった。入院時の腹部超音波検査では虫体を確認できていなかったため、同検査を再施行し、総胆管内に動く虫体を確認した。
 後日虫体除去のため内視鏡を挿入したところ、虫体は十二指腸内に逸脱しており、スネアで回収した(図6, 7)。便検査にて糞便中に虫卵は認めなかったが、予防的に駆虫剤を投与した。

図6(回虫)
図7(回虫)


■ 臨床診断名 胆道内回虫迷入症

■ 解 説
  •  回虫(Ascaris lumbricoides)は世界各地に分布し、世界の人口の20-30%が感染していると言われる。回虫の寄生部位として胆道は約0.1%と報告されるが、迷入例では胆道は約半数を占める。回虫は小孔に頭を突っ込む性質があるため、胆管、膵管、虫垂などに迷入すると言われている。症状は上腹部・背部痛、嘔気・嘔吐、発熱などで、回虫の移動に伴い反復することが多い。
  • 検査所見として、黄疸(20%)、末梢血好酸球増多(30%)、胆道系酵素上昇(40%)、糞便検査での虫卵陽性(80%)などがある。
  • 超音波縦断像で、回虫は胆嚢/胆管内のacoustic shadowを伴わない索状エコー、anechoicなinner tubeを持つ2本の線状エコー(inner tube sign)として、横断像ではhyperechoicな輪状エコー
    (bull's eye sign)として描出される。
  • 治療は内視鏡的摘出術と駆虫剤(pyrantel pamoate)がある。
  • 今回内視鏡挿入時、虫体が胆道から自然脱出していたのはERCPでの造影剤の刺激が原因となった可能性がある。胆道内回虫迷入症は胆管炎や膵炎の原因として念頭に置く必要があり、診断には虫体の移動を確認できる腹部超音波検査が有用である。

■参考文献 1)光井富貴子, 徳毛宏則, 品川 慶, 他:内視鏡的に摘出しえた完全型胆道内回虫迷入症の1例. 日農医誌53:156-160, 2004

2)澤田武, 河村 攻, 眞田治人, 他:磁気共鳴膵胆管造影(MRCP)で診断され,内視鏡的に摘出し得た胆道内回虫迷入症の1例. 日本消化器内視鏡学会雑誌 43:2044-2049, 2001

3)土岐文武, 福屋裕嗣, 中村真一, 他:胆道内回虫迷入症.臨床消化器内科 13:1591-1596, 1998

4)中澤俊郎, 福田喜一, 本間 保, 他:胆道内回虫迷入症の4例.胆と膵 18:689-693, 1997


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