■ 病理所見 病理マクロ像にて、腫瘍は境界明瞭で、硬、灰白色であった(Fig.4)。
ミクロ像では、平滑筋に類似した紡錘形細胞の索状配列が主体を占め、形質細胞、リンパ球の浸潤を伴っていた(Fig.5)。免疫染色ではALK陽性、desminは陰性であった。以上より炎症性筋線維芽細胞腫と診断された。

Fig.4
Fig.5


■ 確定診断名 炎症性筋線維芽細胞腫

■ 解 説  炎症性筋線維芽細胞腫は、主として筋線維芽細胞の特徴を示す紡錘形細胞の増殖から成り、リンパ球や形質細胞など炎症細胞浸潤の著明な腫瘍である。臨床的にはlow grade malignancyとされる。同義語として炎症性偽腫瘍、形質細胞性肉芽腫など多数存在する。頻度は全肺腫瘍の0.04〜1.00%とまれな疾患である。成因は炎症に対する組織修復機転をきっかけとした筋線維芽細胞の増殖である。発症年齢は乳幼児から高齢者まで幅広いが、小児や若年成人に多い。60%は40歳以下で、平均は30歳代である。性差は認めない。発生部位は肺が最も多く、その他腹腔内、後腹膜、骨盤腔内などがある。症状は、肺発生では無症状が多いが、咳、胸痛など訴える場合もある1)
 本腫瘍は単発性が多く、径は約1〜6cm大、弾性硬、境界は比較的明瞭でしばしば分葉傾向を示す。割面は灰白色で充実性であり、出血や壊死、石灰化、嚢胞変性を伴うこともある。免疫染色ではビメンチン、アクチンに陽性である。ALK(anaplastic lymphoma kinase)はチロシンキナーゼ受容体蛋白の1つで、本腫瘍での陽性率は5〜60%である。
 画像所見は、腫瘍は辺縁鮮明、分葉状、類円形であり、石灰化は約15%、空洞形成はまれである。内部濃度は均一である。造影では豊富な線維組織を反映して、均一/不均一な遅延濃染を示す。MRIではT1強調像で低信号、T2強調像で軽度高信号と非特異的である
2),3)。 PETではFDG集積はないか低値とされるが、高集積の報告もある4)。 
鑑別疾患としては過誤腫,硬化性血管腫、結核腫などがあがる。 治療は外科的切除が一般的である、再発率は5%である。

■参考文献
  1. 久岡正典, 橋本洋:炎症性筋線維芽細胞性腫瘍. 病理と臨床21,No.4:413-418, 2003
  2. Takayama Y, Yabuuchi H, Matsuo Y, et al. Computed tomographic and magnetic resonance features of inflammatory myofibroblastic tumor of the lung in children. Radat Med 2008;26:613-617.
  3. Kim S, Han J, Kim Y, et al. Pulmonary inflammatory pseudotumor (Inflammatory myofibroblastic tumor): CT features with pathologic correlation. JCAT 2005;29:633-639.
  4. 今井光一,芦谷淳一,小玉剛士,他:18FDG-PETで高度の集積を認めた炎症性筋線維芽細胞腫の1例. 日本胸部臨床66:259-263, 2007

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