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■ 鑑別診断 |
子宮癌にて両側付属器+子宮全摘後とのことだったので(本人問診により)、MRI上考えられる病変としては、直腸と密に接していることから直腸原発の粘膜下腫瘍(GIST)、骨盤内に発生したdesmoid tumorのようなもの、もしくは卵巣が残っていてそこから線維腫や莢膜細胞腫等の腫瘍が発生したのか。 |
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■ 確定診断名 |
直腸GIST: Gastrointestinal stromal tumor |
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■ 手術所見 |
- 直腸 Ra〜Rb左後壁より発生する腫瘍。大きさ約10cm大で膣断端後壁と強固に癒着していた。また、大網内に約3cm大のmetastatic tumorが1ヶ認められた。(大網内については他院CTで術前に指摘されている)
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■ 病理所見 |
- 出血、壞死を伴う充実性腫瘍。紡錐形、類上皮形の細胞密度は高く核異型、核分裂像に富む、GIST neural typeと診断された。
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■ 考 察 |
- <GIST全般について>
消化管の間葉系腫瘍(gastrointestinal mesenchymal tumor: GIMT)のうち主に紡錐形細胞からなる腫瘍は、gastrointestinal stromal tumor (GIST)の概念が提唱されて以来、平滑筋性腫瘍、神経性腫瘍、GISTに大別されている。
GISTは平滑筋、Schwann細胞、神経細胞へと分化しうる未熟間葉系細胞に由来する腫瘍であり、近年、免疫組織化学的手法の進歩によりそれぞれの腫瘍がどのような細胞起源を有するか推測可能となってきた。
Rosai1)はGIST(広義のGIST)を平滑筋腫と神経細胞への分化の有無により(1) smooth muscle type(SM型)、(2) neural type(N型)、(3) combined smooth muscle-neural type(CSMN型)、(4) uncommitted type(U型)の4つのカテゴリーに分類した。
一方、1998年廣田ら2)は、ほとんどのGISTにおいてc-kit proteinを発現することを報告した。このc-kit proteinの発現などから、最近GISTの発生由来細胞として、消化管蠕動のペースメーカーおよび神経伝達調節の2つの機能が実証されているCajal介在細胞が注目されている3)4)。
GISTの分布は胃に非常に多く(70%)、その他は小腸に20-30%、大腸に5-10%、食道に5%である5)。一般的に、腫瘍部位別の悪性度は食道、胃、小腸および大腸の順に高率となり、予後も不良といわれている6)。
消化管外の発生部位としては、胆嚢、小網、大網、腸間膜、膀胱の報告がある。すべてのGISTは、初診時に転移がすでに20-50%に認められ、その転移部位は肝転移が20-60%に、腹膜播種が20%である7) 8)。
GISTの悪性度については、腫瘍径5cmを境界に5cm以上の症例において有意にmalignancyの率が高くなるとの報告が多数ある。また、腫瘍表面の性状に注目すると、表面平滑型と表面結節型の2つの肉眼型に分類して比較すると、肝転移は表面結節型でのみ認められ、病理学的悪性度は表面結節型で有意に高かった。さらに、潰瘍の有無別での比較では、潰瘍合併例では有意にmalignancyの割合が高かった9)。
X線検査やCTなどの画像所見で大きさや肉眼型、潰瘍の有無などが描出できれば腫瘍の悪性度が推定できる可能性があると思われた。
G STの治療として最も有効であるのは外科的完全切除である。GISTは浸潤性よりも圧排性に発育する傾向にあるため、遠隔転移を認めない症例においては完全切除が可能である。リンパ節転移はきわめて稀であるため、郭清は通常行われていない。
近年、転移を伴う、または切除不能なGISTに対し、tyrosine kinase inhibitorであるSTI571(imatinib mesylate)の有用性が注目されている。Demetriら10)は147人の患者に対してSTI571を使用したRCTを行い、79人(53.8%)がpartial response, 41人(27.9%)がstable diseaseであったと報告している。今後、切除不能なGISTに対する治療にとどまらず、外科的切除を加えた補助療法としての可能性も検討されていくものと思われる。
- 余談(?):<直腸GISTについて>
本邦の報告例(82例)では、50〜60歳に好発し(33〜89歳)、男女比は3:2で、5cm以下の腫瘍では症状が出にくく偶然発見されることが多い。
一方、それ以上の大きさのものでは、圧排に伴う便秘、腸閉塞、排尿障害、腹痛、腹部膨満、潰瘍からの出血などの症状が出やすい。直腸診では正常粘膜をかぶった粘膜下腫瘍として触れ、時に潰瘍を伴う。
診断としては、注腸、内視鏡の他に、CTでは、腫瘍実質は比較的内部均一なmassとして描出され、血流が豊富なため造影剤にて増強効果を認める。大きな腫瘍では中心出血、壞死を伴うため、cysticな部分が認められる。発育は膨張性、圧排性で、辺縁平滑で、周囲臓器との境界は保たれることが多く、浸潤傾向を呈してくることは稀である。CT以外に、USやMRIも同様の所見を得るのに有用である。
血管造影では、hypervascularityなtumor stainを呈す。また、栄養血管のencasementを示す場合も存在する。確定診断は、生検による免疫染色により行われる。
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■参考文献 |
- Rosai J. Stromal tumors.Ackerman's Surgical Pathol 8th ed. Mosby-Year Book,Inc,StLois,1996(p645-647)
- Hirota S, Isozaki K, Moriyama Y, et al : Gain of-function mutations of c-kit in human gastrointestinal stromal tumors. Science. 1998 Jan 23; 279 (5350) : 577-580
- Strickland L, Letson GD, Muro-Cacho CA: Gastrointestinal stromal tumors. Cancer Control 2001 May-Jun; 8(3):252-261
- 櫻井信司:GISTの病理学的概念 外科63(9):1021-1026,2001
- Miettinen M, Blay JY, Sobin LH:Mesenchymal tumors of the stomach.Pathology and Genetics of Tumors of the Digestive System. IARC Press,Lyon,2000,p62-65
- Cunningham RE, Federspiel BH, McCarthy WF, et al: Predicting prognosis of gastrointestinal smooth muscle tumors. Role of clinical and histologic evaluation, flow cytometry, and image cytometry. Am J Surg Pathol 17: 588-594,1993
- DeMatatteo RP, Lewis JJ, Leung D,et al: Two hundred gastrointestinal stromal tumors: recurrence patterns and prognostic factors for survival. Ann Surg 231: 51-58,2000
- Ng EH, Pollock RE, Romsdahl MM: Prognostic implications of patterns of failure for Gastrointestinal stromal leiomyosarcomas. Cancer 69: 1334-1341,1992
- 平井郁仁:消化管の平滑筋性腫瘍、神経性腫瘍、GISTの診断と治療 胃と腸39(4) 2004 増刊号:561-573
- Demetri GD, von Mehren M, Blanke CD, et al: Efficacy and safety of imatinib mesylate in advanced gastrointestinal stromal tumors. N Engl J Med 2002 Aug 15;347(7): 472-480
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