■ 経過
  • 左胸水が貯留し、胸水細胞診を行ったところclass」(adenocarcinoma)と診断された。肺野や胸膜に明らかな結節影なかったが、肺癌胸膜播種として、全身状態も良好ではなかったため、ゲフィチニブ投与開始した。しかし、病態は増悪し、11月に死亡した。
  • 剖検を行い、次の所見を得た。右肺肉眼像では、CTで見られた胸膜下の嚢胞性病変は認められず、不規則な胸膜癒着に伴う空隙形成が見られた。拡大像では小型円形核を有する、軽度の核異型を伴う腫瘍細胞が、臓側・壁側胸膜に沿って1〜数列認め、一部は胸膜下肺実質内へわずかに浸潤していた。免疫染色ではAE1/AE3陽性、ビメンチン陽性、カルレチニン陽性となった。以上より両側悪性胸膜中皮腫上皮型、stage「と診断された。

■ 病理組織像
以下の画像をクリックすると拡大画像が別画面で開きます
染色

肉眼
HE

■ 確定診断名 悪性胸膜中皮腫

■ 考 察
  • 両側気胸により発症し、いったんは軽快したものの、急速に変化する画像所見を呈し、診断に苦慮した両側悪性胸膜中皮腫を経験した。剖検の組織像では、腫瘍細胞は胸膜の表層を1〜数列程度に配列しており、明らかな胸膜肥厚や結節を形成しておらず、画像的にも胸腔鏡視下でも、胸膜腫を疑わせる所見は得られなかった。浸潤傾向にも乏しく、胸水細胞診でもかなり病態が進行してからの発見であった。
  • 本症例のように気胸により発症した悪性胸膜中皮腫は、本邦では8例程度の報告がある。気胸が生じる原因として、胸膜下の腫瘍の壊死、末梢気道の閉塞によるブラ・ブレブ形成、腫瘍による胸膜引き込み・牽引といったものがある1)
  • 悪性胸膜中皮腫の一般的なCT所見として、胸膜肥厚、胸水、血・気胸、胸膜石灰化などが挙げられる2)
  • 気腫性変化やブラ多発といった気胸のリスクの少ない症例で、両側気胸を生じた場合は特に、悪性胸膜中皮腫も鑑別に入れる必要があると思われる。

■参考文献
  1. Tanaka H, et al. Two cases of recurrent hydropneumothorax caused by malignant pleural mesothelioma : Nippon Kyobu Geka Gakkai Zasshi 1996 Oct;44(10):1877-81
  2. Kawashima A, et al. Malignant pleural mesothelioma:CT manifestations in 50 cases : AJR 1990 Nov;155(5):965-969
  3. Georges F, et al. Spontaneous pneumothorax revealing malignant pleural mesothelioma. Three case reports : Rev. pneumol clin. 2004 Sep;60(4):229-33
  4. Alkhuja S, et al. Malignant pleural mesothelioma presenting as spontaneous pneumotharax:a case series and review : American J industrial medicine 2000 Aug;38(2):219-23
  5. Hollinger P, et al. Simultaneous bilateral spontaneous pneumothorax in a patient with peritoneal and pleural papillary mesothelioma : Respiration 1997;64(3):233-5

トップページ(症例一覧のページ)へ戻る