■ 手術所見 膜を切開すると嚢胞が解放され白濁した液が拍動とともに流出した。
右第7・8脳神経周囲に黄色組織を含んだ腫瘍が広がっており、鉗子にて摘出しようとするも硬く、神経とも強固に癒着していた。
被膜とともに一部切開して摘出するもほとんどは残存した。

■ 病理所見 皮膚表皮あるいは髄膜に類似した組織より成り、角質物を容れる。
発生部位から類上皮腫と診断された。
■ 確定診断名 類上皮腫

■ 考 察
  • 類上皮腫は表皮の一部が迷入して形成された外胚葉由来の異所性嚢胞であり、皮膚の付属器を含まない点が奇形腫とは異なる。発生部位では小脳橋角部 (40〜50%)が最も多く、その他傍鞍部、基底槽などに好発し、実質外腫瘤を形成する。一層の重層扁平上皮に覆われ、嚢胞内は落屑上皮やケラチン、コレステロール結晶から成る。偶発的に発見されるものが大部分であるが、症状を呈するものは30〜40歳代で発症することが多い。
  • T1強調像では低信号、T2強調像では著明な高信号を示し、脳脊髄液様に見えるが、よく見ると不均一なことが多い。プロトン密度強調像やFLAIRでは脳脊髄液よりも高信号を示すことが多い。拡散強調像では高信号を示し、他の嚢胞性病変との鑑別に役立つとともに、意外な進展部位を評価できる。本症例では、これらの類上皮腫に典型的な信号強度を示したのは腫瘤の内側部のみであり、大部分は拡散強調像で低信号であったため、くも膜嚢胞や神経鞘腫などが鑑別診断として考えられた。
  • 類上皮腫に特徴的なその他の所見として、嚢胞辺縁の小葉状、波状の輪郭が挙げられる。類上皮腫は、緩徐に周囲の空間に侵入しつつ周囲の構造内にはまりこむように成長する性質があるため、結果的にこのような形状を呈することになる。本症例でも、Meckel洞や脳底動脈周囲へはまりこむように進展する所見が見られ、類上皮腫との診断は可能と思われた。

■参考文献  日向野修一 : 類上皮腫. 臨床画像, 19 : 42-43, 2003.

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