■ 病理所見 手術標本からの病理診断は、Hepatocellular caricinoma moderately differentiated with mixture of well-differentiated area with fatty change であった。腫瘍はほぼ正常と思われる肝より発生し、病理所見にても肝硬変の所見はなかった。また、比較的辺縁に脂肪変性を伴う細胞が多くみられた。

描出標本
組織像


■ 確定診断名 Hepatocellular carcinoma moderately differentiated with mixture of well-differentiated area with fatty change

■ 考 察
  • 肝細胞癌はウイルス性肝炎やアルコール性肝炎などを契機とした肝硬変を合併している症例がほとんどで、日本では、肝細胞癌症例の90%に肝硬変が合併していたとの報告がある1)。非肝硬変症例の肝細胞癌と肝硬変症例の肝細胞癌を比較した報告では、非肝硬変症例の肝細胞癌では、単発でサイズが大きいとの傾向があるが、辺縁の性状や被膜の有無に関して有意差はなったとされている2)
  • 本症例は、単発であったということは報告と合致していたが、初診時においてサイズが大きいという報告とは合致していない。報告の考察では、サイズの大きさに関しては肝硬変症例の危険因子がある群では厳重な経過観察が行われるため、小さい肝細胞癌が発見されやすいのではないかとも述べられている。日本の様に検診でUSによる肝のチェックを行う様な現状においては、サイズが小さい時点での肝細胞癌が発見される割合も増加してくる可能性もあるのかもしれない。別の報告では、非肝硬変症例の肝細胞癌でサイズが大きい場合には、肝硬変症例の肝細胞癌同様、典型的な肝細胞癌の様相を呈するとある。本症例では、サイズが小さい段階でも造影パターンにおいては肝細胞癌として合致していたと思われるが、サイズが大きくなった腫瘤は更に肝細胞癌として合致する所見であり、報告と一致していた。1.5cm未満の小肝細胞癌の約35% で脂肪変性が認められ、小細胞癌では比較的diffuse に変性がおこるとの報告がある.更に,報告では,大きな肝細胞癌であれば,脂肪変性の部分はpatchy に描出されることが多いと述べている3)
  • 本症例においては、初診時では、単純CTにて全体的に低吸収を示し、MRIではT1WI in-phase からopposed-phase にかけて信号低下が見られびまん性な脂肪含有が示唆されていた。初診時から10か月後の増大を認めた腫瘤においては、単純CTにて辺縁部に低吸収域が目立ち、中央部の不均一な高吸収部の造影効果が目立っていた.サイズの大きくなった腫瘤では,辺縁部に強い脂肪化が画像上も疑われたが、病理にても辺縁部に比較的脂肪変性が強く見られたとの所見を得ており、報告とも合致した所見と思われた。また、肝細胞癌と血管筋脂肪腫の鑑別として、肝細胞癌の脂肪変性部では造影効果に乏しいのに対して、血管筋脂肪腫の脂肪成分では比較的早期に濃染が得られることが多いとも報告されている。この事項は、本症例にもあてはまると思われ、2つの鑑別において有用な事項と思われる。いずれにせよ、肝硬変、肝機能障害などの危険因子を伴わない肝細胞癌の診断において臨床的に診断上苦慮することが多いと思われるが、非肝硬変症例の肝腫瘤において、典型的な良性肝腫瘍と診断ができない場合において、以下の様な所見が見られた場合は、肝細胞癌の可能性を念頭にした経過観察などの処置が必要と思われる。脂肪成分の含有がある、動脈性濃染が認められる、腫瘍マーカー(AFP, PIVKA-)、サイズが大きいなどの場合である。
  • 肝細胞癌のhigh risk group を対象にした報告では、小さな肝細胞癌(20mm 未満)でのdoubling time は、5.7 か月であったという4)。別の報告では、動脈濃染を示す10-20mm 未満の結節の経過観察で、肝細胞癌であったものの検討では、3か月で2倍にまで増大するものはなかったという5)。これらの報告は、high risk group を対象にしたもので、risk group でない症例に一概には合致しないものとは思われるが、非肝硬変症例にて比較的小さなサイズの肝腫瘤において、肝細胞癌の可能性を疑った場合、少なくとも3か月までの経過観察は必要であるとの根拠となるのではないであろうか。また、かなりサイズが大きいものであれば、より短期的な経過観察や積極的な精査が必要であると思われる。

■参考文献
1) Brancatelli G, Federle MP, Grazioli L, Carr BI. Hepatocellular carcinoma in noncirrhotic liver:CT, clinical, and pathologic findings in 39 U.S. residents. Radiology 2002;222(1):89-94.

2) Winston CB, Schwartz LH, Fong Y, Blumgart LH, Panicek DM. Hepatocellular carcinoma:MR imaging findings in cirrhotic livers and noncirrhotic livers. Radiology 1999;210:75-79.

3) Parasad SR, Wang H, Rosas H, Menias CO, Narra VR, Middleton WD, Heiken JP. Fat-containing lesions of the liver:radiologic-pathologic correlation. Radiographics 2005;25(2):321-31.


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