■ 鑑別診断 粘液性嚢胞腺腫、脂肪成分に乏しい嚢胞性奇形腫、内膜症性嚢胞

■ 確定診断名 Endometrial cyst of lt.ovary

■ 考 察  腫瘤に沿って左卵巣静脈と連続する扁平な軟部影がみられることから、腫瘤は左卵巣から発生した腫瘍と考えられた。辺縁整、境界明瞭で不整な充実性成分がみられず、転移を示唆する所見も認められないことから良性腫瘍が疑われた。二分されたloculusのうち一方は漿液性成分と考えられた。もう一方はT1強調像および脂肪抑制T2強調像で高信号を示し、血液或いは蛋白質を含む液体と推察された。その内部の羊歯状構造は凝血塊としても矛盾しない所見であったが、内膜症性嚢胞としては閉経後長期を経ている点が非典型的であった。粘液性嚢胞腺腫としては羊歯状の構造物がみられる点が合致せず、羊歯状構造を三胚葉成分や分泌物と考えると嚢胞性奇形腫が鑑別に挙げられたが、石灰化や脂肪成分がみられず典型的ではなかった。
 内膜症性嚢胞は生殖可能年齢にみられ、その年齢分布は30歳代〜40歳代前半にピークを形成する。初経前や閉経後長期間を経ている女性に観察されることは稀である。乳癌術後でタモキシフェンを投与されている例にみられることがあるが、ホルモン薬非使用例にみられることは非常に稀で、発生頻度は不明である。発症機序は明確ではないが、子宮内膜腹腔内逆流移植説や体腔上皮仮生説、その両者の複合説等がある。また、免疫異常の関与も示唆されている。本症例は閉経後15年を経ておりホルモン薬使用歴もないことから、閉経前に発生した内膜症性嚢胞が残存しており、MRIを機に偶然発見されたものと推察される。閉経後であっても、内膜症性嚢胞に合致する像を呈する卵巣腫瘍がみられた際には、鑑別診断に加える必要があると考えられる。

■参考文献
1) 武谷雄二:子宮内膜症の疫学. 日本医師会雑誌134:369-374, 2005
2) 田村充利、村上節:子宮内膜症の発症機序と病態. 日本医師会雑誌134:375-378, 2005
3) 今岡いずみ、田中優美子、武輪恵、他:婦人科MRIアトラス. 秀潤社, 東京, p.170-173, 2004
4) Kurioka H, Takahashi K, Okada M, et al. A case of postmenopausal endometriosis unrelated to neoplasm. Int J Fertil Womens Med 1999;44:160-2.
5) 片渕秀隆、宮原陽、岡村均:総説:子宮内膜症. 画像診断25: 128-136, 2005
6) 望月眞人、桑原慶紀:標準産科婦人科学. 第1版 医学書院, 東京, p.95-98, 1994

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