■ 入院後経過
  • 2006.8.24
    内視鏡下蝶形骨洞開放術を施行。斜台〜蝶形骨洞に柔らかい腫瘍を認めた。生検組織像(図7)にて、骨梁形成と、結節状のmyxo-chondroid tissueが分布し、核異型のある細胞が認められた。免疫染色にてEMA(-)、keratin(+/-)、S100(+)、MIB-1、p53も10%程度であるが陽性であり、Chordoma (low grade malignahcy) と考えられた。
  • 2006.10.2
    経蝶形骨洞腫瘍摘出術にて顕微鏡下に腫瘍全摘を施行した(図8)。右海綿静脈洞近傍より発生していると思われ、周囲の硬膜に浸潤している可能性があった。術後、ガンマナイフ治療を施行した。

図7 生検組織像
図8 経蝶形骨洞腫瘍摘出術


■ 確定診断名 脊索腫 Chordoma

■ 解 説
【発生部位】 脊椎および頭蓋骨・・・身体の正中・傍正中部に発生。
仙尾椎 60% 頸椎 10% 胸腰椎 5%
頭蓋底・鼻腔 25%(頭蓋底では斜台、特に蝶形後頭骨軟骨結合に多い)。
【発生頻度】 全頭蓋内腫瘍の0.5-1%
【好発年齢】 成人
【性  差】 特になし
【病  理】 分葉状の柔らかい腫瘤で、ゼラチン基質を認め、壊死、出血、石灰化を含む。細胞は、ムチンに富み、泡様空洞化を伴う。
【特  徴】 緩徐に発育し組織学的には良性だが、局所浸潤性が強く、鞍上部や橋前部、上咽頭へ進展。
【臨床症状】 脳神経障害(外転神経麻痺が最多)、頭痛
【画像所見】
  • 単純写真:溶骨性変化が見られる。
  • CT:低濃度の軟部腫瘍で、石灰化や破壊骨の残存が見られる。造影後は、腫瘍外側縁のみが濃染する。
  • MRI:T1強調像で、低〜中等度信号、T2強調像で、著明高信号で内部に不均一な低信号が見られる。造影後T1強調像では、中等度の不均一な増強効果を示す。
【鑑別疾患】
  • 軟骨肉腫(脊索腫と信号パターンが類似。石灰化が多い。やや外側から発生)、内軟骨腫、骨肉腫、多発性骨髄腫、骨転移、下垂体腺腫、頭蓋底に波及した副鼻腔炎(特に真菌性)、良性脊索細胞腫  など
  • 予後:悪性化は5% 5年生存率は55%(軟骨肉腫より不良)
  • 治療:外科的切除の後,放射線治療を追加
  • 発生:従来、遺残脊索組織から発生すると考えられてきたが、近年、成人椎体内の良性脊索性病変(良性脊索細胞腫)からの発生が証明された(Yamaguchiら) 。
     <良性脊索細胞腫(benign notochordal cell tumor)>
    骨内脊索腫、脊索奇形腫、脊索遺残
    骨外浸潤を示さない脊索腫類似細胞からなる病変で、剖検例の約20%に認められる。分布は脊索腫と一致。
    胎児の脊索組織とは組織像が異なる。
    発生や脊索腫への転化の機序は不明。

■参考文献 1)Yamaguchi T, Yamato M, Saotome K. First histologically confirmed case of a classic chordoma arising in a precursor benign notochordal lesion: differential diagnosis of benign and malignant notochordal lesions. Skeletal Radiol 2002;31:413-8.

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