■ 手術所見 術式:膵頭十二指腸切除
腫瘍は膵頭部に存在し、十二指腸は拡大気味であった。
横行結腸間膜への浸潤(癒着)を認めた。
胆管の周囲には怒張した側副血行路が発達しており、周囲の側副路が剥離不能のため、一括して総肝管のレベルで結紮切離したが、発達した側副路から大量の出血を認め、それぞれ縫合閉鎖した。

切除標本は十二指腸を鋳型にするように中央部が壊死した腫瘍が存在。
尾側の壊死していない部分は白色の充実性病変であり、中心部分は内部が多房性で血液に充満されている様子であった。

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■ 病理所見 Malignant osteoclastic giant cell tumor of duodenum, papilla Vater, resected

 肉眼的に膵に見える部分を標本にしたが線維化のみで、病変の主体は十二指腸に存在する。十二指腸には異型的な核を持つ紡錘形細胞やbizarreな核を持つ多核巨細胞、比較的均一な核を持つ破骨型の巨細胞が密に混在し、mitosisを伴います。
 免疫染色にてこれらはCK7(-), CK20(-), 34βE12(-), CAM5.2(-), vimentin(+), S100(-), actin(+/-), c-kit(+/-), CD68(+)であり、上皮への分化は見出せない。
 pleomorphic MFHと呼ぶよりも近似の症例が多数報告されていることから、上記の診断名の方が病態を反映していると考えられる。太い血管内への侵入を認めます。


■ 確定診断名 膵破骨細胞様巨細胞腫瘍(osteoclastic giant cell tumor)

■ 考 察  膵破骨細胞様巨細胞腫瘍(osteoclastic giant cell tumor)は、退形成性膵管癌の中の特殊型とされる1)

 退形成性膵管癌は全膵癌の0.3-0.5%を占めるに過ぎないまれな腫瘍で2)、従来未分化癌とされていたものである。多くの場合、一部に膵管癌成分があり、膵管癌の1型と考えられる。細胞形態により、巨細胞型,多形細胞型,紡錘細胞型に分けられるが,巨細胞型のうち,巨大貪食細胞あるいは破骨細胞に類似の巨細胞が目立つものを破骨細胞型として区別する1)
 症状は、腹痛、横断、食欲不振、体重減少、腫瘤触知、背部痛などであり、男女比は男:女=8:12 とやや女性に多い。発症年齢は32-93歳と広い年代の発生をみている。発生部位は国内では若干体尾部に多く,外国では膵頭部に多い傾向がある。臨床検査成績では、特異的なものはない3)

 以前は通常型膵管癌や巨細胞癌と比較して遠隔転移やリンパ節転移は少なく、切除率も高いとされ、切除されたものでは長期生存例も報告されている。しかし症例が増えるに従って一概には言えなくなってきているのが現状である3)4)

 報告例の多くで,肉眼所見にて出血壊死を認めるため、CT上、低吸収領域や嚢胞成分を示すことが多い。退形成性膵癌はhypervascularなものが一般的で、急速な発育のために中心部から壊死に陥りやすい。しかし、腫瘍辺縁部は血流が比較的保たれるため、各種画像検査で造影効果を示す2)

 鑑別としては膵嚢胞性疾患や腺房細胞癌や内分泌腫瘍などが壊死を生じ嚢胞変性をきたしたものが挙げられる。


■参考文献
  1. 日本膵臓学会(編):膵癌取扱い規約,第5版,金原出版,2002
  2. 井坂利史,水野伸匡,高橋邦之, 他:門脈および主膵管内に進展を示した退形成性膵管癌(破骨細胞型巨細胞癌)の1例.日本消化器病学会雑誌102:736-740, 2005
  3. 西村信行,斉藤清二,渡辺明治:膵破骨細胞様巨細胞腫瘍.日本臨牀 領域別症候群,日本臨牀社,大阪,286-288, 1996
  4. 岩瀬弘敬,呉山泰進,桐山昌伸, 他:破骨細胞類似の巨細胞を伴った膵癌の1例.日本消化器外科学会誌23:1186-1190, 1990

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