■ 経過 腹部腫瘍摘出術が施行された。術中所見では膵実質との関連性はなく。十二指腸と緩い癒着を認め、また、下大静脈、下行大動脈との癒着が著しく認められた。
■ 摘出標本割面

■ 固定標本割面

■ 固定標本割面

12×8×7cm大の辺縁平滑な腫瘤。割面では褐色調の腫瘍で、中央部には灰白色の領域を認める(図-8)

中央部の灰白色の領域は、嚢胞化、線維化を反映している。腫瘍の実質は褐色調を呈する(図-9)。

HE染色では、胞体の広い細胞が、周囲を血管間質を含む線維性隔壁で囲まれて、胞巣状に増殖している、いわゆるZellballen構造を認める(図-10)。免疫染色では、S-100(+)、Synaptophysin(+)、chromograninA(+)、CD56(+)であった。

図-8
図-9
図-10

■ 鑑別診断 平滑筋肉腫、悪性線維性組織球腫、MPNST、横紋筋肉腫、神経芽腫、傍神経節腫、神経鞘腫

■ 確定診断名 傍神経節腫(Paraganglioma of sympathetic trunk)

■ 解 説 傍神経節腫は副腎髄質や交感神経節に存在するクロム親和性細胞からなる腫瘍を言う。80〜90%は副腎髄質由来で、これは褐色細胞腫と呼ばれている。副腎外発生は10〜20%で、頚部、縦隔、骨盤、膀胱、腹部大動脈周囲の傍神経節から発生する。臨床症状としては、カテコールアミンなどの生理活性物質を産生する機能性の腫瘍の場合は、高血圧、頭痛、発汗過多、高血糖、代謝亢進などの症状を呈する。内分泌作用が弱い場合には、特異的な症状は呈さず、腹部腫瘤触知や腹痛などで発見される場合が多い。10%ルールとして、副腎外、両側性、悪性、家族性、無症候性のものが10%に見られるとされる。治療はいずれも外科的切除である。

腹部に発生するものは8〜16%で、中でも腹部大動脈周囲の傍神経節から発生するものが最も多い。好発部位は大動脈分岐部や腸骨静脈付近である。好発年齢は30〜40代の男性であり、内分泌作用が弱く症候性は60%に留まる。また、悪性の頻度が20〜42%と高いといわれ、骨、肝、肺、リンパ節に転移する。小児発生例での特徴は、頻度は10%、好発年齢は6〜14歳、副腎外発生30%、悪性15%、家族性40%とされる。これらのことからは、副腎外発生例や、小児発生例ではいわゆる10%ルールが当てはまらない為注意が必要。

画像所見としては、CTでは腫瘍は3cmよりも大きいことがほとんどであり、内部は軟部組織濃度を示す。大きくなると腫瘍中心部に出血、壊死性分を含むようになる。10%に石灰化を認める。MRIでは、T1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号を示す。ただしT2強調画像での高信号を示すものは80%にとどまり、内部壊死や出血がある場合には信号が低下する。また、T1強調画像では小出血を反映した点状高信号、T2強調画像では腫瘍内血管のflow voidを認め、いわゆるsalt-and-pepper様の不均一な像を呈する。Dynamic studyでは早期に造影効果を示し、後期相まで造影効果が持続する。壊死や出血巣部分は造影効果が弱く、不均一となる。ただし、画像所見のみでは他の後腹膜腫瘍、平滑筋肉腫、悪性線維性組織球症、神経鞘腫との鑑別は困難である。診断には高血圧などの症状、血液データなどが有用とされているため、無症候性の場合、診断が困難となることが多い。

■参考文献
  1. 日本病理学会小児腫瘍組織分類委員会(編).小児腫瘍組織カラーアトラス.金原出版, 2004, 26−27.
  2. Rha SE, Byun JY, Jung SE, et al. Neurogenic tumors in the abdomen:Tumor types and imaging characteristics. RadioGraphics2003;23:29-43
  3. Daniel P, Jonathan B, Isaac E, et al. Best cases from the AFIP:Paraganglioma of the Organs of Zuckerkandle. RadioGraphics2003;23:1279-86
  4. Wendelin S, Alan J, Philip M, et al. Extraadrenal Rtroperitoneal Paraganglioma:Clinical, Pathologic,and CT Findings. AJR1990;155:1247-50

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