■ 鑑別診断 両側視神経に拡散強調画像で高信号を呈する疾患として以下の疾患が挙げられる。
・視神経炎
・視神経膠種
両側被殻にT2強調画像で高信号を呈する疾患として以下の疾患が挙げられる。
・MELAS
・多発性硬化症
・PRES
・メタノール中毒
<確定診断>
メタノール中毒

■ 確定診断名 メタノール中毒

■ 解 説 メタノールは分子量30、比重0.79の主に天然ガスから製造される無色透明かつ揮発性の液体であり、工業用品の溶媒や農薬などに幅広く利用されている1)。以前は密造酒などに混入したものを飲用し起こるものが多かったが、近年では自殺目的、誤飲、職業曝露により発症することが多いとされている。メタノールの毒性は主にアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素の作用によって生じた代謝物(ギ酸)が主体である。ギ酸によるチトクロームオキシダーゼ阻害によりミトコンドリアの酸化的リン酸化を阻害し、細胞内低酸素状態が生じ、嫌気性代謝の亢進による代謝性アシドーシスを惹起する2),3)。これにより脳虚血状態に陥り、ピルビン酸・乳酸が生成され代謝性アシドーシスに至ると考えられる。
メタノール中毒の画像上の特徴としては病巣の好発部位は基底核、大脳皮質、視神経とされ、両側対称性に出現し虚血性壊死や壊死性出血を起こす場合がある
4),5)。特に虚血に対して脆弱である穿通枝領域や分水嶺領域に強く病変が出現するとされ、急性期に拡散強調画像で著明な高信号を呈した領域は細胞性浮腫を反映し、壊死に陥る範囲が予測される。視神経に信号強度異常を認めるのはギ酸の直接障害による脱髄性変化や直接的軸索損傷の可能性が挙げられる3)。また、両側被殻に病変を認めるのは脳底(Rosenthal)静脈による血液流出が乏しいため、被殻にギ酸が蓄積しやすい、被殻に酸素やブドウ糖の消費量が多く、低酸素状態に弱いのが原因と考えられる6)
メタノール中毒の典型的症状としては、12〜24時間の潜伏期間を経て消化器症状、視神経障害、中枢神経障害を呈する。本症例が急性中毒ではなく発症から数日経過してから緩徐に症状が進行しているのは、大酒家であったためにメタノールの代謝が遅れたものと思われる
7)
以上から、日常診療で診断はメタノールの服用歴が明らかであれば容易であるが、本症例の如く明確でない場合が多い(本症例は自宅のコーヒーランプに含まれるアルコールの誤飲が疑われている)。しかし、原因不明の意識障害を認める患者が高度の代謝性アシドーシスを呈し、画像精査にて上記所見を認める場合はメタノール中毒の可能性を念頭に置く必要があると思われる。

■参考文献
  1. 藤代 一也:メタノール中毒.中毒研究3:379-84, 1990
  2. 伊関 憲, 市川 一誠, 永野達也, 他:検知管により早期診断し,かつ被殻病変を画像診断し得たメタノール中毒の1例.日本救急医学会誌16:175-81, 2005
  3. 永沢 光, 和田 学, 小山 信吾, 他:視神経病変をMRIにて描出できたメタノール中毒の1例.臨床神経学45:527-30, 2005
  4. Rubinstein D, Escott E, Kelly JP, et al. Methanol intoxication with putaminal and white matter necrosis: MR and CT findings. Am J Neuroradiol 1995;16:1492-4.
  5. Blanco M, Casado R, Vazquez F, et al. CT and MR imaging findings in methanol intoxication. Am J Neuroradiol 2006;27:452-4.
  6. 佐々木 庸郎, 石田 順朗, 小島 直樹, 他:Top of the basilar syndrome を疑われたメタノール中毒の1症例.日本救急医学会誌19:160-7, 2008
  7. 小山 伸一, 行岡 秀和, 森本 修, 他:急性メタノール中毒により脳死に陥った1症例.日本集中治療医学会雑誌3:.235-39, 1996

トップページ(症例一覧のページ)へ戻る