■ 鑑別診断 Polycystic kidney disease
Multicystic dysplastic kidney (MCDK)
Congenital mesoblastic nephroma (CMN)
Multilocular cystic renal tumor
Wilms tumor

■ 摘出標本 大小の嚢胞が多数認められる。

■ 確定診断名 Polycystic kidney disease

 広島大学病院での病理診断は、Multilocular cystic renal tumorの一つのTypeであるCystic partially differentiated nephroblastoma(CPDN)となっていたが、中央病理の最終診断は、Polycystic kidney deseaseであった。


■ 解 説  Polycystic kidney diseaseには、Autosomal dominant polycystic kidney disease(常染色体優性遺伝型多発性嚢胞腎)とAutosomal recessive polycystic kidney disease(常染色体劣性遺伝型多発性嚢胞腎)がある。常染色体優性遺伝型多発性嚢胞腎は、Potter 3型の嚢胞腎に相当する。患児の85%に染色体16qに存在するPKD1遺伝子の異常を認める。両側腎皮質、髄質に大小不同の嚢胞が年齢とともに進行性に出現し、腎は腫大する。乳幼児期は超音波で正常に見えることがあるので注意を要する。また、1個、または2-3個の腎嚢胞が年齢とともに徐々に数を増やし、大きくなることもある。合併する肝、膵など他臓器の嚢胞は通常思春期、または成人になって約1/3の患者に出現する。脳動脈瘤は約10%に見られる。常染色体劣性遺伝型多発性嚢胞腎は、Potter 1型嚢胞腎に相当する。染色体6pの異常によって起こる。新生児期、乳児期に両側腎腫大、腎不全で発症することが多い。1-2mm大(集合管拡張)の小さな嚢胞が無数にあるが、超音波では嚢胞は見えず、腫大した腎がびまん性に高エコーを呈するのが特徴である。本症例は、どちらのタイプとしても、片側性である点が非典型的である。今後は左腎に嚢胞が出現してくる可能性があるので、厳重にfollowしていく必要性があると思われる。
 Multilocular cystic nephroma (MLCN)は、非遺伝性の良性腫瘍であり、腫瘍は多房性嚢胞の形態を示し、通常は単発性で片側性である。組織学的には嚢胞性腎腫(cystic nephroma; CN)と嚢胞性部分的分化型腎芽腫(cystic partically differentiated nephroblastoma; CPDN)という2つに分類される。肉眼的には両者の区別はつかない。MLCNは片側性で、通常8-10cmと大きく、単発性で腎臓の一部分に認め、厚い線維性被膜で覆われている。多数の薄い隔壁を有する嚢胞成分からなる境界明瞭な腫瘍である。腫瘍内の個々の嚢胞の大きさは、数mm〜4cmで、出血、石灰化や壊死は稀である。各嚢胞は互いに交通はない。嚢胞内に充実成分がないことが、腎芽腫や腎癌をはじめとする他の腎腫瘍との鑑別点である。腫瘍内の隔壁は、CNでは隔壁は線維組織からなり分化した上皮細胞を含んでいるのに対し、CPDNでは低分化な腎芽細胞や幼若間葉組織を一部に含んでいるという点で両者は鑑別される。MLCNは新生児には見られないと言われていたが、胎児診断の進歩により胎児例も報告されている。本例は片側性の多房性嚢胞性腫瘍ということで、Polycystic kidney diseaseよりもMLCNの方が画像的には合致しているように思われ、鑑別は難しいものと考えられる。

■参考文献
  1. Hopkins K, Giles W, Wyatt-Ashmead J, et al. Best cases from the AFIP cystic nephroma. RadioGraphics 2004;24:589-93.
  2. Agrons G, Wagner B, Davidson A, et al. Multilocular cystic renal tumor in children: radiologic-pathologic correlation. RadioGraphics 1995;15:653-69.
  3. 木野 稔:腎嚢胞性疾患 小児の超音波診断.小児科診療63:225-229, 2000
  4. 山下康行:知っておきたい泌尿器のCT・MRI, 秀潤社, 東京, p102-103, 2008
  5. 荒木 力, 原 裕子:すぐわかる小児の画像診断, 秀潤社, 東京, p316-317, 2001

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