可逆性脳血管収縮症候群とは、急性に発症し、遷延性だが可逆性の脳血管攣縮を示す様々な病態の総称である。病態生理に関しては不明な部分が多いが、血管の自動調節能の異常が基本となっているものと考えられている。若年女性に多く、なかでも片頭痛例、妊娠中、出産後に多いといわれている。血管作用薬や経口避妊薬の服用歴もリスクファクターとなる。
現時点では、明確な診断基準はないが、Calabrese LH らが提案している診断基準では、
・血管造影やCTA、MRAで、多発する脳血管の収縮がある
・動脈瘤によるくも膜下出血が否定されている
・脳脊髄液でほぼ異常所見が認められない
・急激に発症した頭痛(神経症状の有無は問わない)
・発症から12か月以内に脳血管の異常像が改善する
が挙げられている。 しかし、本症例のように、脳出血に脳室穿破を合併、またくも膜下出血を合併したものでは、上記の診断基準は満たすことができないものと思われる。
Ducros Aらは、可逆性脳血管収縮症候群のもっとも多い合併症の一つとして、くも膜下出血を挙げている。このことより、上記Calabrese LH らの診断基準が可逆性脳血管収縮症候群の診断基準として真に用いることができるかどうかは、現時点では断定できないものと思われる。
画像所見としては、CT、MRIでは、正常像を呈することもあるが、 脳動脈所見(血管造影やCTA、MRA)にて、収縮,拡張が交互に認められる部位(beading)が多発し、この収縮が可逆性であることがもっとも特徴的な所見とされている。血管の収縮が高度で、末梢の灌流が障害されると脳梗塞を合併し、この梗塞はwatershed領域が多いとされている。再灌流によるくも膜下出血の合併、脳内出血、posterior reversible encephalopathy syndorome (PRES)を伴うこともある。
本症例は、発症時より、くも膜下出血を合併していた。出血の原因となるような動脈瘤や外傷の既往がなく、もっとも強い所見が脳出血であったことから、まず脳血管攣縮が起こり、脳出血を合併、これが脳室に穿破、くも膜下出血を合併したと考えるのがもっとも妥当とは思われるが、くも膜下出血により、脳血管攣縮を発症した可能性を完全には否定はできないと思われた。
治療法は、 確立したものはないが、まずは経過観察されることが多く、頭痛がひどい場合、神経症状がある場合には、血管収縮による低灌流を防ぐためにカルシウム拮抗薬が用いられたり、短期間のステロイド投与が有効とする報告もある。
予後としては、6-7割は軽快するとされているが、まれではあるが、再発の報告もある。出血や梗塞を合併すると、致死的となることもあり、本症例は、出血、梗塞を合併したため、一命はとりとめたものの、後遺症を残すこととなった。 高度な頭痛の症例、特に妊娠中あるいは出産後女性においては、本症例も鑑別に考慮すべきと考えられた。 |